Project story

プロジェクトストーリー

【国内初】新型コロナウイルス抗原検査キット誕生の裏側

感染症に立ち向かい続ける社員たちの想いとは

2019 年末に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、瞬く間に全世界へ広がり、人々の日常に大きな影響を及ぼした。2019 年 12 月に新型コロナウイルスが初めて報告されて以降、誰もが未知の感染症への不安と恐れを感じていたなか、H.U.グループは前例のないスピードで、国内初となる新型コロナウイルス抗原検査キット「エスプライン®SARS-CoV-2」を上市※1(2020 年 5 月)。その後もインフルエンザウイルス抗原を同時に検査できる抗原定性同時検査キットの開発、これら検査キットの一般用検査薬(OTC)化など、検査領域において H.U.グループのシナジーと各部門の連携を活かし、世の中のニーズに応え続けている。感染拡大を防ぐため、そして、人々の命と暮らしを守るために、新型コロナウイルス感染症に立ち向かい続ける H.U.グループの一員である、富士レビオの研究開発本部、生産本部、製品企画本部の社員たちに話を聞いた。

※1 上市 承認された新薬(検査薬)が市場に出されること

プロジェクトメンバー

※所属は2022年12月の取材当時の情報です。

  • 研究開発

    MISSION

    ヘルスケア領域において新たな価値を提供する臨床検査薬や検査機器、バイオ基礎技術、新規デバイスなどの R&D(研究開発)を中心に、薬事(登録)申請なども担う。

    • K.Y.

      2017年 キャリア入社

      富士レビオ株式会社

      研究開発本部 新規製品開発部 試薬設計5課 課長

    • R.H.

      2017年 新卒入社

      富士レビオ株式会社

      研究開発本部 新規製品開発部 試薬設計5課

    MISSION

    ヘルスケア領域において新たな価値を提供する臨床検査薬や検査機器、バイオ基礎技術、新規デバイスなどの R&D(研究開発)を中心に、薬事(登録)申請なども担う。

  • 生産

    MISSION

    高品質な製品をタイムリーに供給することがミッション。原料の精製や培養などの生産業務、製造工程全般や生産設備の管理、開発フェーズからのスケールアップも行う。

    • T.K.

      1992年 新卒入社

      富士レビオ株式会社

      生産本部 宇部工場 工場長

    • T.N.

      1997年 新卒入社

      富士レビオ株式会社

      生産本部 生産技術部 部長

    • S.K.

      2021年 キャリア入社

      富士レビオ株式会社

      生産本部 宇部工場 宇部 EL 製品製造課

    MISSION

    高品質な製品をタイムリーに供給することがミッション。原料の精製や培養などの生産業務、製造工程全般や生産設備の管理、開発フェーズからのスケールアップも行う。

  • 製品企画

    MISSION

    市場のニーズに応じて、各種製品の仕様、サービス、流通、販売戦略などを企画。上市とその後の改良も含めて製品化のサポート役を担う。

    • T.I.

      1993年 新卒入社

      富士レビオ株式会社

      製品企画本部 第二製品企画部 部長

    MISSION

    市場のニーズに応じて、各種製品の仕様、サービス、流通、販売戦略などを企画。上市とその後の改良も含めて製品化のサポート役を担う。

01.研究開発

抗原検査キットを1日でも早く世の中に

——「これまでにない異次元のスピード感で開発が進みました」とエスプライン®SARS-CoV-2の開発をリードした富士レビオ研究開発本部の K.Y.は振り返る。通常の検査キットや試薬の上市は、世の中のニーズから予備検討を行い、臨床結果や生産体制などのリスクマネジメントをしながら、デザインレビューとよばれる 4 段階の審査会議を経る。その後の薬事申請の承認にも長い期間がかかり、開発から上市まで2年以上かかるのが通例だ。過去にも試薬開発に実績があった K.Y.が今回のプロジェクトにアサインされたのは、大型クルーズ船での集団感染で国内にも新型コロナウイルス感染症の脅威が迫っていた時期だった。

K.Y.

「この感染症の今後が見通せない状況のなか、新型コロナウイルスの遺伝子配列が、以前、中国を中心に流行した SARS(重症急性呼吸器症候群)と似ていることが報告されました。そこで当社は、臨床検査薬のパイオニアとして多くの抗体を用いた高感度検出技術の知見と、SARS の研究のために開発した抗体を組合せることで、新型コロナウイルスを高感度で検出できるのでは、と考えたのです。当時の検査方法は PCR 検査※2 だけで、H.U.グループは民間企業として国内初となる検査の受託も開始していました。PCR 検査では、1 検体の結果判定に 2 時間以上かかるため、すべてを検査するのはかなり大変だと検査現場から聞いていました。『もしもパンデミックになったら...』と、緊急事態への危機感から、少しでも早く判定できる抗原迅速検査※3 キットの開発は必要だと認識を深め、予備検討を加速し、プロトタイプ試薬開発を進めました」。

—— 国内感染拡大の危機感が強まる中、H.U.グループは AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)が主導する研究に参加し、早期の抗原検査キット開発を目指した。

K.Y.

「AMED 研究班に参加し、国立感染症研究所から供与された組換え新型コロナウイルス抗原が、プロトタイプ試薬で SARS と同様の反応を示すことを確認できましたが、頭の中では、『すぐ次の準備をしないと』と考えていました。というのも、その少し前にパンデミック宣言があり、国内では感染源不明の感染者が増え続け、危機感が生まれつつありました。当時はワクチンや治療薬がいつできるのかわからず、対応できる医療的措置は“検査”のみ。検査キットの研究開発中も『私たちが今やらないと!』という使命感が次第に強くなっていきました。だからこそ、1 日でも早く抗原検査キットを上市することが私たちの至上命題となったのです」。

—— その後、第 1 波の後期であったため、評価用の臨床検体数がなかなか集まらず、その臨床評価が難しい中、グループ会社であるエスアールエルで測定された行政検査検体を用いたPCR法との比較試験結果を加えて評価することができることになり、エスプライン®SARS-CoV-2 は申請、承認されて、国内初となる抗原迅速検査キットが上市された。

※2 PCR検査 検体に含まれるウイルスなどの微量な DNA を増幅させて検出する検査方法

※3 抗原検査 検査したいウイルスの抗体を用いてウイルスが持つ特有のタンパク質(抗原)を検出する検査方法

—— 研究開発本部のメンバーは、ラボと同様の品質を持つ製品を工場で何万、何十万と生産するために、生産本部(工場・生産技術部)と連携しながら、開発フェーズから生産フェーズへのスケールアップ(技術移転)も行う。大学院でがん細胞の研究を手がけ、そこで検査の重要性を感じたことから H.U.グループに入社した研究開発本部の R.H.は、いくつかの基礎研究を進めるなかで得たエスプライン®製品の技術移転に関する知見を期待され、プロジェクトへ参加することに。

R.H.

「試薬の組成や製法を文書化し、具体的な工程を生産本部に伝えるのが技術移転のミッションです。エスプライン®製品は主にインフルエンザの医療用抗原検査キットとして約 30 年前からある製品ですが、過去の資料を洗い直し、あらためて今回の技術移転を行うには何が必要かを検討し、K.Y.さんや実際に生産する宇部工場、生産技術部とも連携を取りながら情報を集めました。緊急事態宣言が発令され、在宅勤務となる中、抗原検査キットを少しでも早く上市したいという想いや使命感は、このプロジェクトに関わる全員が口に出さずとも共有していたと思います。自宅から遠隔で直接工場に指示を出したり、社内の承認や薬事申請のために『この情報が必要です』『あの資料を確認してください』と K.Y.さんや宇部工場に無理なお願いもしました。でも、誰もが同じ想いを持って必死に取り組んだことが、新型コロナウイルス抗原検査キットとして、国内で一番最初にエスプライン®SARS-CoV-2 を上市できた、一番の理由だと思います」。

—— エスプライン®SARS-CoV-2 の上市後も、医療機関のニーズに応え、常温保存や使用期限の検証、唾液での検査の検討など、研究開発本部では改良が続く。特に症状が似ているインフルエンザウイルスとの同時検査は、上市と前後して社内でも検討が始まっていたと R.H.は話す。

R.H.

「2020 年秋には同時検査が可能という研究成果が出て、それを引き継ぎ、製品化の段階から私が同時検査キットの開発を担当しました。技術移転についても前例の経験から以前よりスムーズに進めることができ、2021 年 8 月にエスプライン®SARS-CoV-2&Flu A+Bを上市できました。さらにその翌年には、医療機関のひっ迫から世の中に求められた抗原検査キットの一般用検査薬(OTC)化にも、K.Y. さんや生産本部のメンバーとともに貢献できました。自ら関わった製品が薬局などで手にできる経験は初めて。自分がこれまでに果たした役割が社会貢献につながっていることを、今まで以上に実感できました」。

—— 今後も、新型コロナウイルス感染症対策と社会活動の両立が求められるなか、エスプライン®SARS-CoV-2の研究開発で重要な役割を担った彼らが見つめる先とは——

K.Y.

「エスプライン®SARS-CoV-2 は国内初の抗原検査キットだったため、開発中は感度などの基準がまだ決まっていませんでした。そのため、関連公的機関や臨床試験の施設と協議して、抗原検査キットがどうあるべきかを考え、これからのスタンダードと呼べるものを作り、承認が得られたことには大きな達成感がありました。その一方で、新型コロナウイルス感染症がある限り、今後もエスプライン®SARS-CoV-2の改善・改良は続きます。感染症法上の位置付けが 5 類となった後の検査ニーズも変化していくことでしょう。しかし、多くの人に検査の重要性が再認識された今、私たちが人々の健康に貢献できるステージは確実に広がりました。これは大きなチャンスです。プロジェクトを通して感じた H.U.グループのシナジーも、今後さらに発揮できるはずです」。

R.H.

「検査ができなければ、診断も適切な医療行為もできません。迅速に検査ができるエスプライン®SARS-CoV-2 をいち早く開発し、現在は一般の人でも手に取れるようになったことで、『検査を通して人々の暮らしや健康の課題を解決したい』という、まさに私が入社前に志望動機として掲げた医療貢献が実現できました。H.U.グループのシナジーや連携力の高さもあらためて感じられ、今回生まれた多くの部署間のつながりは、必ずこれからの研究開発に活かせるはずです。今後は新型コロナウイルス感染症の治療薬の開発も進むと思われます。だからこそ、検査プラス治療のワンセットにまで視野を広げるなど、世の中のニーズに応じて常に自分をアップデートする意識を持って、研究開発に取り組みたいと考えています」。

02. 生産(宇部工場・生産技術部)

適切なタイミングで、必要とされる場所に、必要な量を

—— 富士レビオは、現在エスプライン®SARS-CoV-2を最大週 48 万テスト生産する能力を有しており、旭川工場(北海道)及び宇部工場(山口県)にて生産を行っている。2020 年 5 月のエスプライン®SARS-CoV-2の上市を前に、宇部工場の生産体制の立ち上げに尽力したのが、2020 年 6月から宇部工場の工場長を務める T.K.だ。入社後から各生産現場で知識・技術を積み重ね、設備や機械の知見も深い。エスプライン®SARS-CoV-2 の製品化に前後して、当時生産技術部に所属していた T.K.のミッションは、宇部工場のエスプライン®SARS-CoV-2の生産能力を大きく向上させることだった。

T.K.

「2020年春、研究開発本部ではエスプライン®SARS-CoV-2の開発が急ピッチで進んでいました。国内でも徐々に感染拡大が広がるなか、1 日でも早く、少しでも数多く抗原検査キットを上市したいと、急遽宇部工場には各部門から社員が集められ、最終的には以前の 5 倍以上もの人員体制を構築しました。私はかつてエスプライン®製品の生産設備の導入経験がありましたので、研究開発本部や生産技術部と連携し、大型装置を含めた生産ラインを立ち上げると同時に、宇部工場や各部門から急遽集まった社員への教育に取り組みました。それは宇部工場の既存の生産ラインすべてを止めるほどの、前例のない試みでした。経験のある主要メンバーに製造工程や手順を教育し、その主要メンバーが各工程を担当する社員に指導する形を取り、私も昼夜を惜しまず現場でスタッフをフォローしました。当初は慣れない作業で単純なミスも多く、試作段階では失敗して原料を無駄にしてしまったこともありました。しかし、誰もが最短ルートで生産能力を高められるようにトライアンドエラーを繰り返し、ミスがあっても周りで支え合いました。機械のメンテナンスや修理も、通常ならメーカー側が対応しますが、県外移動が困難な時期であったため、私も経験から知恵を振り絞って、なんとか自分たちでこなしたほどです。このモチベーションの高さは、当社の抗原検査キットが国内で初承認されたことをニュースで聞いたり、この抗原検査キットが必ず世の中の役に立つという確信を、関わった誰もが持っていたからでしょう。設備の導入やマンパワーによって生産数も次第に増やしていくことができました」。

—— 技術移転や生産体制の立ち上げを進めるために、生産技術部は研究開発本部と各工場の間に立ち、大型設備の導入も含めたスケールアップの中心的な役割を担っている。かつて研究開発本部に在籍し、エスプライン®製品などの検査キットや検査薬の開発に取り組んだ経験を持つ生産技術部の T.N.は、2020 年 2 月に抗原検査キットの予備検討を進めている段階から、実際に工場で生産できるのか、頭ではシミュレーションを始めていたという。

T.N.

「実際の製造工程を考え、各工程のリスクマネジメントもしながら、足りない設備は何か、どうすれば解決できるのか、資材や機械の調達はどうするかなど、技術移転をより具体的にリードしていくのが生産技術部の役割です。エスプライン®SARS-CoV-2 においても、材料調達が難しいため、研究開発本部に設計変更を依頼したり、工場の試験製造や原料調達をサポートしたりと、私のこれまでの経験を活かしながら、まさに間に立って進めました。日々あわただしく動きながら、なんとかエスプライン®SARS-CoV-2 を上市できましたが、すぐ次に目は向いていました」。

—— 国内で感染拡大が広がるなか、検査ニーズの高まりから、さらなる生産能力の増強は不可欠だった。宇部工場だけでは足りず、北海道・旭川にあった電子部品工場の製造クリーンルームを借り、旭川工場を立ち上げることに。

T.N.

「新設工場のためほぼすべての設備を新しく導入する必要がありました。2020 年 5 月には機械設備メーカーとの商談を開始。12 月にはひと通りの設備を設置し、2021 年 1 月には生産を開始しました。通常は 1 台の生産装置を数名で担当しますが、今回は 10 台以上を同時に進めていたため、研究開発本部から応援を呼んでも、1 人が 1 台以上を担当していました。振り返ってみても、よくこの短期間でこれだけの設備を揃えられたと思います。でも、それはここで作られる抗原検査キットで救える命があるから。少しでも早く、必要とされる場所へ届けたいという想いを、旭川工場の立ち上げメンバー全員が持っていたからこそできたのでしょう。機械設備メーカーの方々も私たちの想いに共感いただき、急ぎの依頼にも対応してくれるなど、チームとして一致団結していました」。

—— 新型コロナウイルス感染症は変異株の影響もあり、これまでに計 7 回の大きな感染拡大の波があった。時期や感染者数の予測が困難な波に対し、エスプライン®SARS-CoV-2の生産計画や資材の調達にも困難がつきまとったという。その生産計画の策定や、宇部工場における細かな調達・受入・製造・出荷の計画、日程管理を行ったのが、宇部工場に勤務する S.K.だ。旭川工場立ち上げ後すぐの 2021 年に入社後、生産現場でのオペレーション業務から急遽生産計画を担当することになった。

S.K.

変異株の影響で抗原検査キットの需要が大きく高まり、関係省庁からも当社へ連絡が来るほど切迫した状況のなか、前職で生産計画を経験していたこともあり、工場長の T.K.さんから手伝って欲しいと声をかけてもらいました。資材によって納品までの時間は数日から数か月までさまざまです。そのため、これまでにない検査ニーズに応えるには、いつ、何が、どこに搬入されるのか、それを宇部工場と旭川工場のどちらで使うのか。まさにパズルのように考えて計画する必要があり、毎日旭川工場と連絡を取り合い、少しでも数多く生産できるよう調整しながら生産数を決めていました。急な需要増で資材調達を急いでもらったり、夜シフトでの増産をお願いしたりと、周りにも本当に協力してもらって...。そんな2022 年 1 月頃、まさに自分が増産計画を立てていた時に、自宅で『担当大臣が抗原検査キットの不足により各社に増産要請をしている』というニュースを見たことはよく覚えています。自分の仕事が世の中に直結していることを、これほど感じられた瞬間はなかったですね。だからこそ、困難があっても乗り越えようというモチベーションも湧いてきたのだと思います。生産ニーズの波への対応には苦労もありましたが、この経験があったからこそ、ある程度の需要増にもしっかりと対応できる、現在の生産計画フォーマットを作ることができたのです」。

—— 生産本部は世の中の検査ニーズに対応し、エスプライン®SARS-CoV-2の製造を続けている。その柔軟な対応は、エスプライン®SARS-CoV-2の一般検査薬(OTC)化にも寄与している。

T.K.

「エスプライン®SARS-CoV-2の上市後、ある保健所から直接工場に『待っていました、ありがとうございます!』と電話があったんです。こんなことは普通ありません。また、最近ではエスプライン®SARS-CoV-2N(一般用)が薬局などの店頭に並んでいます。『自分がこれを作っている』と子どもに言えるような仕事なんて、素晴らしいですよね。私は工場長として、現場社員一人ひとりに自分の仕事に誇りとやりがいを持って欲しいと思っています。それがモチベーションや社員の主体的な行動にもつながり、宇部工場の生産性を高めることにもなるからです。すでに宇部工場ではエスプライン®SARS-CoV-2とは別の、新たな生産設備の増設に着手していますが、社員や多くの部門と連携して乗り越えた今回の経験を活かし、これからも宇部工場を盛り上げていきます」。

T.N.

「生産技術部のポジションは研究開発本部や各工場、また機械設備メーカーなどとの連携が必要ですが、今回のエスプライン®SARS-CoV-2を通して、今まで以上にお互いがわかり合えたように思います。抗原検査キットの判定結果が感染拡大を防ぐ一つのキーになることがわかってきていますので、今後の検査ニーズにも対応できるよう、高めた連携力を活かしたいですね。また、ここ数年はエスプライン®SARS-CoV-2にかかりきりでしたが、新たな設備導入などを経験して最新の技術的な知見も得られました。他の製品についても、生産現場が使いやすい機械を導入して工程数を軽減するなどの効率化を行い、よりよい製品を、適切なタイミングで、必要とされる場所に、必要な量をしっかりと届けられる生産体制を整えていきたいと考えています」。

S.K.

「私が H.U.グループに入ったのは社会貢献性の高さ。富士レビオが抗原検査キットを生産していることは知っていましたので、本当に社会に求められているものを自分も作りたいと考えたからです。エスプライン®SARS-CoV-2の生産計画も担当し、今は工程管理者も任されていますが、世の中のニーズに応える大きなやりがいが日々感じられる、一生忘れられないような時間を過ごせています。また、前職でも経験した生産計画は裏方の仕事ですが、計画がないとその先の製造は始まらず、世の中に届けることができません。私自身この仕事に対するイメージは変わりましたし、自分の仕事に誇りを持てたことが自信にもつながりました。人と人のつながりの大切さ、同じ思いを持った人と成し遂げる喜びも、波を乗り越えるなかで得られたもの。きっとこれからの財産になります」。

03.製品企画

高まる抗原検査キットへのニーズに応える

—— 国内初の抗原検査キットとして多くの医療機関で採用されたエスプライン®SARS-CoV-2は、2022 年 10 月に一般用検査薬(第 1 類医薬品)として製造販売承認を受け、薬局やドラッグストア、EC サイトなどでの薬剤師による販売が可能となった。コロナ禍での医療ひっ迫やさらなる感染拡大を防ぐため、体外診断用医薬品の規制が変わり、家庭などで行う検査の重要性がより高まったことが、一般用検査薬(OTC)化を進めた理由の一つだ。このような検査ニーズの変化を見極め、どのような製品を、どのように世の中に広めていくのか、製品の仕様や販売戦略をリードするのが製品企画本部の役割。エスプライン®SARS-CoV-2においては、同部署で POCT(簡易迅速検査)の製品を担当してきた T.I.が、研究開発本部や生産技術部などと連携。開発初期段階から一般用検査薬(OTC)化まで深く関わっている。

T.I.

「通常は製品の感度や形状、付属品、生産数量などをじっくりと検討しますが、2020 年のエスプライン®SARS-CoV-2 は、1 日でも早く世の中に出すことが最優先でした。当時コロナ禍がここまで長く、大きな影響を与えるとは想像できなかったのですが、特殊な設備や技術者が必要な PCR 検査だけでは検査ニーズに応えられず、いずれ抗原検査が必要になるだろうという予測はありました。研究開発本部が作った抗原検査キットの精度が高く、薬事申請にも十分対応できる優れたものでしたので、いち早く上市できるよう、私もできる限り研究開発本部や生産技術部、宇部工場のサポートをしました」。

—— その後、抗原検査キットが広まり、体外診断用医薬品の規制はコロナ禍の影響とともに変化していく。特定医療機関のみで行われた検査が、医療従事者による高齢者施設での検査、企業では医療従事者以外での検査も可能となり、厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症に係る特例的な対応として、医療用抗原検査キットを薬局において販売できる許可を出した。一般用検査薬(OTC)化はその最終段階となる。

T.I.

「エスプライン®SARS-CoV-2の一般用検査薬(OTC)化を後押ししたのは、抗原検査キットが感染拡大の防止に効果的だとわかったからです。ある自治体のアンケートにおいて、家庭で検査を行い陽性だった場合は約 95%の人が病院に行くというデータがありました。つまり、抗原検査キットを誰でも手に入れることができる環境があれば、早期の受診・治療につなげることができ、結果的に感染拡大の抑制に貢献できると考えました。国内のPOCT(簡易迅速検査)分野では、一般用検査薬(OTC)化された製品は数が少ない現状はありましたが、たとえハードルが高くても実現したかったのです。私たちは規制の段階的な変化に合わせて、アンケート結果をはじめ、国や抗原検査キットの無料配布に協力していた自治体のニーズをしっかりと把握する一方、一般用検査薬(OTC)化に向けた提案や働きかけを行い、一般用検査薬(OTC)を世に出せる体制づくりも進めてきました。規制が変わる度に、まさに一歩ずつです。だからこそ、国が一般用検査薬(OTC)化を許可した時、迅速にエスプライン®SARS-CoV-2の一般用検査薬(第 1 類医薬品)の承認が取得できたのです」。

—— エスプライン®SARS-CoV-2の一般用検査薬(OTC)化では、一般向けの小分け仕様、わかりやすいキットの使い方の説明、コールセンターの設置など、一般の使用者を想定した製品企画を立案。医療用とは異なる流通形態にも対応した。

T.I.

「添付文書を熟読する人が少ないと思い、専用ホームページを立ち上げ、使い方を紹介する動画も制作。若者が使うことも想定してスマートフォンアプリも開発しました。当社では初の試みばかりでしたが、これらは部署の若手社員が率先して担当。私にもいい経験となりました。一般検査薬ですので、いずれはテレビ CM や動画サイトなどで広告を出す機会だってあるかもしれません。そうやってエスプライン®SARS-CoV-2を多くの人に知ってもらい、届けられるようになったことは、もちろん嬉しいことです。しかし私はそれ以上に、製品の承認が下りた瞬間に達成感と期待感がありました。一般用検査薬(OTC)化に向けたこれまでの動きが結実したと同時に、練り続けてきた販売戦略を実行して、世の中に製品を広められるチャンスが得られたわけですからね。これは製品企画ならではのやりがいかもしれません」。

—— 2022 年 10 月のエスプライン®SARS-CoV-2N(一般用)の上市に続き、同年 12 月には一般用として国内初となるインフルエンザウイルス同時検査キットも発売。T.I.のチャレンジはこれからも続く。

T.I.

「薬学部出身の私はエスアールエルの検査員として入社後、開発、生産、品質管理、営業企画、購買など、試薬の開発から製品が世に出るまでのさまざまな部署を経験してきました。それらの経験は、製品企画部での市場の予測や製品仕様の決定、部署間連携においても活かせました。エスプライン®SARS-CoV-2ではさまざまな国内初を実現できましたが、今後もブルーオーシャンである新しい市場への参入に、ぜひ挑戦したいと考えています。そこにチャンスがあるのなら、見逃す手はありません。エスプライン®SARS-CoV-2に関わった誰もが積極的に、主体的に動いたからこそ、チャンスを自らの手で掴み、大きな社会貢献と成果を成し遂げられたのではないでしょうか」。

研究開発本部や生産本部、
製品企画本部、さらに多くの
グループ会社・部署が連携し、
エスプライン®製品は
世の中のニーズに応え続けている。
そこにあるのは
社員一人ひとりの強い想い。
それらが集まることで、
H.U.グループのシナジーは、
より大きく、確かなものとなる。
これからも H.U.グループの
チャレンジは続く。
人々の健康のために、
ヘルスケアの未来のために。

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